今回取り上げる本は、メーテルリンクの『青い鳥』です!
日本ではあまり馴染みのない作品かもしれませんが、世界的に見れば超がつく名作中の名作。
「幸せの青い鳥」という言葉の”元ネタ”になりますし、この青い鳥から着想を得ている作品やドラマも多数あります。
日本では「童話」として子供向けに書かれていることも多く、読み聞かせなどで小さなときから触れることができる作品でもあります。
ではでは、「幸せの青い鳥」こと『青い鳥』、どんなお話なのか、そして、どんなことを感じ、得ることができるのかをご紹介していきましょう!
『青い鳥』の作品概要

題名
青い鳥(L’Oiseau bleu)
作者
モーリス・メーテルリンク(Maurice Maeterlinck)
作品ジャンル
夢幻童話劇
出版
新潮文庫
『青い鳥』のあらすじ

クリスマスイブの夜、窓からお金持ちの子供たちがお祭りで楽しんでいる様子を見ていた貧しい木こりの子チルチルとミチル。
そんな2人のもとに醜い老妖女が現れ、「青い鳥」を探すように言います。
妖女は「青い鳥」を探す道具としてダイヤモンドが付いた青い魔法の帽子をチルチルに渡します。
チルチルがその帽子に付いているダイヤモンドを回すと、なんと目の前の醜い妖女は美しい王女様となり、家中の”ボロ”だったものが眩い宝石や大理石でできたもののようにいきいきと輝き出し、極め付けは、「犬のチロー」や「ネコのチレット」、「火」や「砂糖」、「パン」といったありとあらゆるものの「精」が”見えるようになり”、話せるようになったのです。
そしてチルチルとミチルは、犬とネコをはじめとする「精」たちとともに、様々な国や世界へと「青い鳥」を探しに行くのです。
果たして、その先でチルチルとミチルは「青い鳥」を探し出すことができるのでしょうか…?!
『青い鳥』を読んで
評価・感想

テンポ・読みやすさ:言葉遣いや表現方法など、文章として読みやすいかどうか。
世界観:設定や舞台背景、ストーリーの仕掛けの斬新さなどを評価。
キャラクター:登場するキャラクターの魅力。
ストーリーの理解のしやすさ:本に書かれた世界をイメージしやすいか、ストーリーを理解しやすいか。
感じるもの:物語でありながらメッセージ性や読み手が得るものがあれば評価。
おもしろさ / 世界観 / キャラクター / 感じるもの
「帽子についたダイヤモンドを回すと、世界が美しく輝き出し、あらゆるモノや動物、さらには概念でさえも”精”とコミュニケーションが取れるようになる」というこの設定がまず持って興味を惹かれますね!
そして、彼ら彼女ら「精」たちの行動もまた、それぞれ個性的。
一見するとただの「擬人化」にも思えますが「精」たちの行動はいかにも”人間的”ですし、妖女は魔法の帽子を、「人間の見えなくなった目に光をさずけるもの」とか「人間が見えなくなったものが見えるようになるもの」というように説明しています。
これは、「現在の僕たちがいかに、日常に溢れているもの、ともすれば日常という概念そのものさえもないがしろにしている」という風に捉えられますし、「僕たちが生きる世界は見方を変えればこんなにも美しいもので溢れているんだ」とも捉えられますよね!
もちろん、人によって捉え方は様々でしょうから僕の感じ方がすべてではありません。
とにかく、物語として楽しみながら多くのことを考えさせてくれる作品でした。
テンポ・読みやすさ / ストーリーの理解のしやすさ
この作品で取り上げるべき特徴として、「”劇の台本”の形で書かれている」という点があります。

途中の描写はト書で書かれています。
『青い鳥』の作品ジャンルは「童話劇」ということで、写真のようにほぼ会話のみでお話が進んでいきます。
そう。
本当に、劇の台本。
そしてこの劇形式、一見すると会話のみでわかりやすいように思われますが、初めてこの形式で読んでみると意外と読みにくいのです!
ぶっちゃけ慣れの問題でもあるのですが、いちいちセリフ主の名前を見ないといけないくて意外とテンポが悪いです。
状況説明も最小限なので、結構読み手の想像力に左右されるところもあります。
シェイクスピアの作品を読んだことがある方には馴染み深いのですが、慣れるまでの「テンポ・読みやすさ」と「ストーリーの理解のしやすさ」の評価は正直「1」か「2」。。
ただ、慣れてしまえば「この形式じゃないとこの作品は読めないよね〜」となるのも事実なので(笑)、「4」としました。
加えて、「第◯章」ではなく「第◯幕」と書かれていたのも印象的でしたね!

作品中のキーワードからの考察
ここからは、僕なりの考察や感じたことをご紹介していきます!
ダイヤモンドがついた魔法の青い帽子
魔法の帽子についてはすでに軽く書きましたが、改めて触れます。
というのも、この『青い鳥』という作品の最初のポイントだと感じているからです。
「魔法の青い帽子についているダイヤモンドを回すことで、モノや動物の「精」が生きる世界へとその場が変わる」という点ですね。
この「精」は、この世の中のありとあらゆるモノや動物を擬人化したものだと考えたいただくと一番わかりやすいかと思います。
そんなモノと動物たちは、「人間が青い鳥を見つけたら死んでしまう」と伝えられます。
そして、イヌを除いたモノと動物たちは、なんとかチルチルとミチルが青い鳥を手に入れないようにあの手この手を尽くします。
この部分の考察については、後述の「青い鳥」の部分で触れますね!
また、作中ではダイヤモンドを回すことで現れる世界を「本当の世界」と呼んでいます。
「本当の世界」では、チルチルの質素な家がとても素晴らしい家具や装飾品で飾られており、チルチルは「宝石のようだ」と妖女に言います。
この時妖女が放ったセリフが、
「石はどれでも同じだよ。どの石もみんな宝石だよ。だが人間は、その中のほんの少しだけが宝石だと思っているんだよ。」
というもの。
「今の人間は物事の本質が見えていない。モノや動物にだって意思や思いがある。」
「どんなものだって美しく、素晴らしいんだ。」
ということを、暗に言っているように僕は感じました。
冒頭の「妖女」が言ったセリフでしたので、最初はチルチルとミチルを騙そうと綺麗事を言っているのかと思いましたが、結局妖女は最後まで、チルチルとミチルをサポートします。
物語の最初に登場する「妖女」が味方のお話はそうそうない気がしますので、その点レアな作品ともいえますよね!笑
ちなみに、「醜い妖女」は「本当の世界」では「美しい女王様」です。
もしかしたらここにも、「人を見かけで判断するものじゃあない」という教訓が込められているのかもしれませんね!
思い出の国
チルチルとミチルは、「思い出の国」で死んだはずのおじいさんとおばあさん、そして弟と妹たちと出会います。
詳しい内容はネタバレ防止で省きますが(実際に読んでみてください!)、この章には、「思い出さえあれば誰とだっていつでも会える」というメッセージが込められていたと感じました。
また、「思い出の国」の住人は生きていたときより生き生きと明るくなっており、次幕の舞台である「墓地」でダイヤモンドを回すと、「光溢れるおとぎ話に出てくるような花園」になるのです。
特に「墓地」の描き方は印象的で(シーン的にはほんの5ページしかないのですが)、メーテルリンクは死後の世界に対してかなりプラスの印象を抱いているようにも思いました。
(あるいは、「死」は”救い”になる、という解釈もできなくはないのですが…。)
で、調べてみると、この『青い鳥』の作品の主題は「死と生命の意味」なんだそう。
なるほど。
「死」については「思い出の国」や「墓地」で描き、「生命」については「本当の世界」全体で描いている。
かなり深い作品なのですね。。
実は、『青い鳥』は何かを感じようとして読まないと、”ただの劇”になりかねない気がするというのは読み終わって感じていました。
他の児童文学など(『星の王子さま』とか)ほど、”メッセージ”はわかりやすく表現されてはいない。
「何かを伝える」という点だけにフォーカスすると、『青い鳥』という作品は意外と伝わりにくく、ちょっとした深読みが必要かもしれません。
まぁそれはそれで良い読書になることは間違いないのですが!!
というか、こうなるとより子供向けの「童話」の方ではどう描かれているのか、ちょっと気になりますね。
『青い鳥』、結構大人向けな内容かもしれないぞ。笑
幸福の花園
「幸福の花園」はその名の通り、「幸せ」が溢れる光り輝く場所です。
本来、ダイヤモンドを回さなくてはそれぞれの世界に住む住民(「精」たち)は見ることができません。
しかしこの「幸福の花園」では、ダイヤモンドを回さなくても人間が唯一見ることができる幸福が存在しています。
それが、「一番ふとりかえった幸福」たちです。
「一番ふとりかえった幸福」は、
「お金持である幸福」
「地所持であるである幸福」
「虚栄に満ち足りた幸福」
「かわかないのに飲む幸福」
「ひもじくないのに食べる幸福」
「もののわからない幸福」
「なにもしない幸福」
「眠すぎる幸福」
「太った大笑い」
の総称です。
そして彼らは、ダイヤモンドを回して「本当の世界」にすると、侮りや呪い、罵りとともに「不幸」へと入っていってしまいます。
ここでは2つのメッセージを感じました。
まず、「一番ふとりかえった幸福たち」は「本当の世界」じゃないのに見えるという部分。
これは、「一番ふとりかえった幸福たち」に該当する幸福たちは「偽りの幸福」であることを表していると思います。
、、う~ん…。
「偽り」じゃちょっと違う気もするなぁ。。
とにかく、この部分の「幸福」に関してのみ言うと、「目に見える幸福は”本当の”幸福ではない」ということですね!!
そして、「人間はそんな”本当じゃない”、”偽りの”幸福しか見えていない」という皮肉めいた表現になっているとも感じました。
これは、、耳が痛いですね。。
これに加えたいのが、「光」のこのセリフ。
「ダイヤモンドの力が花園の隅々に行きわたるにつれて、今にもっといろいろなものが見えてきますよ。みんなが考えているよりずっとたくさんの「幸福」が世の中にはあるにに、たいていの人はそれを見つけないのですよ。」
そして、「幸福たち」のこのセリフ。
「ぼくたちはいつだってあなたのまわりにいるのですよ。そして、あなたといっしょに食べたり、飲んだり、目をさましたり、息をしたりして暮らしているんですよ。」
もうこのままで意味は通じますよね!
たまにこういうストレートな表現をしてくれます。笑
2つ目は、「幸福の花園」の中に「不幸」という場所もあるという部分。
これは、「幸福の中には常に不幸も潜んでいる」という、ある種の教訓を感じました。
「うまくいっているときほど用心すること」とはよく言ったものですが、メーテルリンクも同じことを言いたいのではないでしょうか。
あるいは、「幸福と不幸は常に紙一重、隣り合わせ」ということですね。
いつ幸福が不幸になるかわからない。
けれど、いつ不幸が幸福になるかもまたわからない。
いや〜、深いです。。
子供の幸福
「幸福の花園」にいる幸福の1つが、「子供の幸福」です。
「子供の幸福」は、この世でも天国でも、いつも一番美しいものに装われています。
そして、貧乏もお金持ちも区別がないのだと言います。
これもストレートな表現ですね!
本当にそう思います。
子供の笑顔や無邪気さこそ、この世界で一番”尊い”ものなのでしょう…!
大きな喜び
「幸福の花園」の中で特に大切なのは、「大きな喜び」と呼ばれる「喜び」たち。
「大きな喜び」は、
「正義である喜び」
「善良である喜び」
「仕事を仕上げた喜び」
「ものを考える喜び」
「ものがわかる喜び」
「美しいものを見る喜び」
「ものを愛する喜び」
「母の愛の喜び」
の総称です。
中でも取り上げたいのが、「母の愛の喜び」です。
「母の愛の喜び」はこの世で一番純粋な喜びで、子供が笑い、母を愛するほどより若く、美しく輝きます。
メーテルリンクは、「母を愛することこそ、最も大切なことだ」ということを言いたいのではないでしょうか。
これは、「生命」のテーマの根幹かもしれません。
誰もが、母から産まれてくる。
その母には、最大の愛情と敬意を持たなければいけない。
う〜〜ん、とても考えさせられますね…!!
青い鳥
ということで、最後に題名にもなっている「青い鳥」について。
あらすじではネタバレしないよう配慮しましたが、ここでは物語の結末を書かないことにはご紹介できないので書きますが、、
(ですので、ネタバレしてほしくない方はここは読み飛ばしてください!!)
結局のところ、「青い鳥」は「幸運の証」のことなのでしょう!
(まぁ「幸せの青い鳥」なんて言うくらいですからね。笑)
実は、チルチルとミチルはそれぞれの国や場所(舞台)で青い鳥を無事見つけ、持ち帰ること自体はできたのです。
しかし、青い鳥はどこから持ち帰ってこようとも、もとの自分たちの家に戻ってきた頃には死んでしまったり色が変わっていたりします。
それでいて、物語の最終的な”オチ”として、チルチルとミチルの家にもともといた鳥が青くなっているのです。
遠くにあるようでずっとずっと近くにある。
気まぐれに飛んでいき、またきっと戻ってきてくれる。
そんな「青い鳥」こそが「幸せ」なんだ、ということなのではないでしょうか。
そして、チルチルとミチルがそんな「青い鳥」を見つけることを阻もうする「精」たち(上述した「人間が青い鳥を見つけたら「精」たちは死んでしまう」という部分)は、僕たちの世界でいう「人の幸せを自分の都合で奪っていく人」に当たるのではないかと感じました。
子供へ、「おまえはこうしろ」「こうしないといけないんだ」「こうするべきなんだ」と言う大人(親御さんや先生が多いかな…)、
「自らの利益のために他者を利用するもの、貶める者」、
などなど、ですね!
もちろん、この世界でのそういった行動(特に今の例でいう前者)は、単に相手のことを思ってのことという場合も多いです。
ただ、相手を思ったはずの行動が、必ずしも相手のためになっている訳ではない、自分のエゴなんじゃないかって考えさせてくれるところでした。
そして、この「青い鳥」とこのお話のテーマ「死と生命の意味」を合わせての全体のテーマとして、「幸せとは?」ということも言えるのではないかと感じました。
『青い鳥』のまとめ

ということで、今回はメーテルリンクの『青い鳥』をご紹介してきました。
物語の”表”部分は確かに子供向けの不思議な世界の冒険物なのですが、その”裏”と言いますか、”中身”の部分にはとても多くの、そして深い、考え・思慮・メッセージが込められているように感じました。
劇台本の形式の本に慣れるという意味でも最適な一冊です。
幸せの青い鳥。
きっとそれは、思っていた以上にすぐ近くにあるものなのでしょうね…!
“みんなが考えているよりずっとたくさんの「幸福」が世の中にはあるにに、たいていの人はそれを見つけないのですよ。”